「これは富士山である：登拝篇・遥拝篇」絵葉書集』（限定100セット）発行のお知らせ

■発行について

このたび、パラレルモダンワークショップは『「これは富士山である：登拝篇・遥拝篇」絵葉書集』を発行いたします。『「これは富士山である：登拝篇・遥拝篇」絵葉書集』は、登拝あるいは遥拝を通し、美術家、画家、写真家、銭湯ペンキ絵師、キュレーターら合計22名が富士山を見つめた体験に基づくイメージを、各自一枚の絵葉書として制作、それらをまとめたものです。
登拝とは、富士山を登ることによる信仰を指し、遥拝とは、富士山を遠方より仰ぎ見ることによる信仰を指します。パラレルモダンワークショップは、第37回ユネスコ世界遺産委員会で富士山が「信仰の対象と芸術の源泉」として世界遺産登録されてから10年となる2023年、登山が認められている7月1日から9月10日を範囲として、「これは富士山である：登拝篇・遥拝篇」と題する活動を行いました。古くから信仰の対象として、特に明治時代からアジア・太平洋戦争中にかけては日本の象徴（シンボル）として、現代においても国内外から多くの観光客が集う富士山。そのイメージは、近世から近代の画家、浮世絵師、写真家らの美術作品は言うに及ばず、テレビ、新聞、雑誌などのマスメディアや、インターネット上のSNSをはじめとするソーシャルメディアを通して、もはや数え切れないほど生産され、流布され、今日に至っています。
しかし、言うまでもなく、それらはあくまで富士山のイメージ（図像）であり、富士山そのものではありません。したがって、絵葉書によってあたかも富士山の複製を目論む活動の名称として、「これは富士山である」というテーゼはいかにも矛盾していますが、本活動は、さまざまなメディウムを用い、何かしらのイメージをつくることを営為のひとつとしている私たちが、あくまで個々の立場・経験から富士山を対象として見つめたとき、どのようなイメージが生まれるのか（あるいは、生まれないのか）を問うものにほかなりません。シュルレアリスムの画家として知られるルネ・マグリットは、一本のパイプを描いた《イメージの裏切り》（1929年）の画面下部に、「Ceci n’est pas une pipe.（これはパイプではない）」と書き込みましたが、パラレルモダンワークショップは、「これは富士山である」とあえてこの活動を名づけることによって、新たにつくられた22の富士山のイメージの是非を問いかけます。
絵葉書集は、作者直筆のサインまたはハンコが添えられた22枚の絵葉書のほか、表題と活動のルールがその裏面に記された表紙と、解題（小金沢智「ベタ」の再検討—「これは富士山である：登拝篇・遥拝篇」解題）、奥付の3枚を合わせた合計25枚のセットとして、箔押しをした特注の桐箱（製作：箱義桐箱店）に収めました。デザインは、丸山晶崇（株式会社と）。
「これは富士山である」。しかし、この絵葉書集は、イメージ（図像）の印刷物＝複製物であり、限定100セットという数も、その唯一性からは隔たっています。世界遺産登録から10年、私たちはいまなお象徴であることを望まれ続け、唯一無二の存在として聳え立っている富士山と、どのような関係を結ぶことができたのでしょうか？（小金沢智）